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観たり聴いたり

浮いたり沈んだり

ほしよりこ『逢沢りく』

手塚治虫文化賞マンガ大賞受賞作『逢沢りく』、遅ればせながら。

ほしよりこさんのインスタをたまに見てるのだけど

www.instagram.com

こんな風に、鉛筆の線に迷いがない。

この漫画はセリフ含めて全編鉛筆描きなんだけど、インスタ以上に繊細なタッチ、高い精度の線で描かれている。かといって、読んでいて負担になったり疲れるような神経質さは感じさせない。

表情の描写が特にわかりやすいけど、ほんの少しでもぶれたらまったく別の心情の顔になるだろう繊細なタッチ。眉間を寄せたり口元を歪ませたり、微笑んだり大笑いしたり、少ない線で様々な表情と心情が伝わってくる。表情だけでなく背中や足元のラインも、心情を語っていて無駄な線がない。例えば、登場人物の後ろ姿を見るだけで表情が浮かび気持ちも感じられる。直接描いていないものまで読み手に届いて、伝わる絵、伝わる漫画という巧さがわかる。

そしてほしよりこさんは書き文字も素晴らしい。力の抜けたような筆致なのだけど、気持ちにぶれがなく、狙った通りに書く手元の精度がなければ書けない文字だと思う。

線が少なく余白で語る絵柄と、頁いっぱいの書き文字とが合わさったシーンは圧巻。食卓を囲む家族の賑やかさ、食器の音まで聞こえてきそうな描写で、主人公逢沢りくとの対比が面白い。ストーリーは逢沢りくの成長譚だけど、周りの大人や子供の葛藤や思いも丁寧に描かれている。

筆者は人の心情を読み取ったり感じたりする解像度のようなものが凡人とは全く違うレベルにある人なのだろう。視覚的な解像度も高くて素晴らしい眼を持った人にしか描けない作品だと思った。

ほしよりこさんのインスタは美味しそうな食べ物がたくさん載っていて、おすすめ。絵が上手い人は字もうまいし、眼が良いから写真も伝わるんだなと感じます。